糖尿病の治療には、薬物療法、運動療法、食事療法がありますが、その中でもすべての基本となるのが食事療法です。
糖尿病を予防するためにも欠かせない食事療法について、普段からどのようなことに気をつければよいのか、管理栄養士の穴山幸さんにお話を伺いました。
主食を抜く糖質制限で血糖をコントロール
私は分子整合栄養医学という、脱カロリー栄養学に基づいた食事療法を指導しています。糖尿病の食事療法というとカロリー制限が一般的ですが、私の場合は糖質制限食を主に指導しています。
糖質制限食は、できるだけ糖質の摂取をおさえるという食事療法で、カロリーの制限はありません。最近ではダイエットでも糖質制限が話題になっているので、ご存知の方も多いかもしれませんね。
糖質制限食は、簡単にいうと、主食を抜いておかずを食べるというイメージです。
糖質は、炭水化物から食物繊維を引いた残りの栄養素です。糖質というと、砂糖やスイーツなどの甘いものを想像される方も多いかもしれませんが、ごはんや小麦を多く含むパンや麺類、じゃがいも、かぼちゃなどの根菜類に多く含まれています。
またビールや日本酒など、お酒にも糖質が多く含まれているものがあります。糖質制限食はこれらの量を減らすだけで、面倒な計算は必要ありません。
ストレスも血糖値をあげる原因に
糖尿病の治療には、1に食事、2に運動、3に薬と言われています。毎日バランスを考え、カロリー計算した食事療法を守り運動をしていても、血糖コントロールがうまくいかない患者さんが少なくありません。
特にカロリー制限食は、食事全体を減らすことになるので、体を作るのに必要な栄養素を摂りきれないことも。肌がかさついたり、血糖値は安定していても、それ以外の部分で調子が悪くなってしまうこともあります。
さらに2型糖尿病になる方は、これまでにごはんや甘いものなどを好んで食べていたり、これまでの生活習慣が原因になっている場合が多いので、「血糖が高いですね」と言われた途端にそれらを制限してしまうと、ストレスによる反動が起こることもあります。
血糖値を上げる原因として、糖質を摂取することの他に、ストレスも血糖値を上げてしまうことがわかっています。
ストレスが加わると、それに反応していろいろなホルモンが出るのですが、インスリン以外のホルモンはどれも血糖値を上昇させる働きを持っています。
ストレスのある状態から体を守るためには、頭を働かせて神経を張り詰めたり、全身の筋肉を動かす必要があるからです。
ですからいくら食事制限をしたとしても、その内容がストレスがかかるような方法では、長続きしないのはもちろん、かえって血糖値を上げてしまうこともあります。
糖質の代わりに働く「ケトン体」の存在
頭を働かせたり、全身の筋肉を動かすには、やはり糖質が必要なのでは? と思ったかもしれませんが、体を作っているのは水とたんぱく質と油が基本です。
もし糖質を摂取しなくなっても、体は脂肪を燃焼させてエネルギーとして使うようになります。このときに肝臓で作られるのがケトン体です。
ケトン体は、ブドウ糖の変わりに脳や他の臓器のエネルギー源になってくれるものです。
糖質制限を行う場合、たんぱく質を一食あたり自分の手のひらの大きさ・厚み分を摂るよう心がけましょう。
糖質制限をして具合が悪くなったという方は、食事全体の量も減っている可能性があります。
手のひら分というと結構な量と思うかもしれませんが、だいたい体重60キロの人であれば、60g程度のたんぱく質が必要になります。
この量は豚肉だと300g程度になります。
また「和食は体にいい」というイメージがありますが、煮物など甘辛い味付けのものは、砂糖やみりんなどの糖質が多く含まれていますし、その他ドレッシングやケチャップ、ソースなど調味料にも糖質が多く含まれているものがあります。
また、中華料理や、タイ料理、韓国料理なども糖質が高めのメニューが多いので、糖質制限をする際は気をつけて食べましょう。
ストレスをためず心が満足する食事を
糖質制限をするときのポイントは、なるべくナチュラルな形のわかるものを食べること。
加工食品でなく、野菜やお肉、お魚など元の食材の形がわかるようなものから栄養を摂るとうまく続けられるでしょう。
糖質制限食は、ダイエットや美肌、仕事のパフォーマンスアップなどの効果も期待できます。糖尿病を予防したいという方も、まずはダイエットなどご自身の目標を立てて、結果的に糖尿病を予防する形で始めるといいかもしれません。食事は体だけでなく、心の栄養にもなります。
「心を満足させる」ことを大事にしながら、糖質制限をうまく利用してみてください。※糖質制限をする際は専門医や管理栄養士に相談するようにしてください。