つい食べ過ぎてしまう。やめようと思っているのに、やめられない。
私はそんなに意志の弱い人間ではないはずなのに、なぜか「食べ過ぎてしまう」ことだけはやめられない。
こんな経験は、特に女性なら誰しも一度はあるのではないでしょうか。
「無性に食べたい」という衝動はとても強く、意志の力ではコントロール不可能です。
食べ過ぎてしまうのには、ちゃんとした生理的現象に基づく理由があったのです。
食べ過ぎに関する3つの誤解
つい食べ過ぎてしまう現象について、日本では満腹中枢や習慣、意志の問題とされることが多いようです。
しかしそれは本当なのでしょうか?
食べ過ぎに関する誤解1:「満腹中枢が満足すれば食べ過ぎない」
満腹中枢の問題だとすれば「お腹が空いているわけでもないのに、特定の食べ物が無性に食べたい」という現象を説明できません。
例えば女性なら誰しも、生理前に「特定の食べ物が食べたくてたまらずイライラする」現象は経験があると思います。
私の場合は、チョコレートとレモンでした。
その衝動は強烈で、食べるまでは何をしてもおさまりません。
しかも類似の食品ではダメで、チョコレートとレモンそのものでないとダメなのです。
生理前の食欲増加は、黄体ホルモンの分泌増加が原因と言われています。
しかしなぜ「特定の食べ物のみ」が食べたくなるのかが不思議でした。
「単なる空腹」と「無性に食べたい感覚」は別の現象
「単なる空腹」と「無性に食べたい感覚」は、明らかに異なります。
「単なる空腹」は「無性に食べたい感覚」ほど強烈ではなく、イライラや焦燥感などの不快な感覚をともないません。
「単なる空腹」はむしろ、忙しくて食事できなかったりするといったん忘れてしまうことさえありますが、「無性に食べたい感覚」は実際に食べるまで決してなくなることはありません。
食べ過ぎに関する誤解2:「習慣の問題である」
食べ過ぎてしまうもう一つの原因としてよくあがるのが「習慣」です。
テレビやスマホを見ながらの「ながら食べ」や、つい多めの量の食事を用意してしまうことなどです。
そういう人もいるのかもしれません。
しかし私には当てはまりませんでした。
「ながら食べ」をしていても、多めの量を用意したとしても、食べ進んで自分が満足したら、お皿にまだ食べ物が残っていても、その時点で食べるのをやめるからです。
問題はむしろ、ながら食べしていてもしていなくても、食べていて「なぜ満足する地点になかなか到達しないときがあるのか」ということでした。
食べ過ぎに関する誤解3:「意志の問題である」
食べ過ぎてしまう原因を「意志の弱さ」とする考え方は根強く存在します。
たしかに多少は関係するでしょう。
しかし私は「体が発するシグナルに、無意味なものはないのでは?」と思っていました。
痛み、かゆみ、倦怠感、吐き気など、体が訴える症状はすべて、体のなかで何かが起こっていることのサイン。
空腹感は、血糖値が下がったサインです。
それならば「特定の食べ物が食べたい」というあの強烈な衝動も、もしかして、体のなかで何かが起こっているサインなのではないか?
そう思っていたある日、食べ過ぎてしまう現象についてのアメリカでの研究を目にしました。
そして、私が疑問に思っていたことのすべてが氷解したのです。
食べ過ぎることについての研究
アメリカでは食べ過ぎてしまう現象は「food cravings」(食物渇望)と呼ばれ、研究が進んでいます。
「食物渇望」の定義は「特定の食べ物が食べたいという強烈な欲求」で、「特定の食べ物でなくても満たすことが可能」な「空腹感」とは区別されます。
モネル化学感覚研究所(Monell Chemical Senses Center)のマーシャ・ペルシャ(Marcia L. Pelchat)博士の研究では、若い女性のほぼ100%、若い男性の約70%が過去1年間の間に食物渇望を経験しているとのこと。
これほど高確率だと、食べ過ぎてしまう現象は「誰にでも起こっている」と考えて良さそうです。
しかしこの傾向には男女差があります。
女性は甘い味の食べ物を渇望する傾向が強く、男性は塩味や辛味の効いた食べ物や、匂いの強い食べ物を渇望する傾向が見られるのだそうです。
そんな中でも衝撃的だったのは、自然療法医師コリーン・ヒューバーさんが発表している「食物渇望チャート」でした。
特定の食べ物が無性に食べたいときや、食べ物の種類かまわずとにかく食べたい欲求は、特定の栄養素の欠乏を訴える体からのサインであるという説です。
では、特定の食べ物が食べたいときはどの栄養素が欠乏しているのでしょうか?
その食べ物に含まれる栄養素を体が必要としているケース
「その食べ物を食べると、特定の栄養素が体に供給される」ことを脳が経験的に知っているため、特定の栄養素が欠乏すると自動的に「あの食べ物が食べたい!」という欲求が起こるケースです。
その食べ物に含まれる栄養素を体が必要としているケース1:チョコレートが食べたい→マグネシウム欠乏
「チョコレートが無性に食べたい」という渇望はかつての私だけでなく、ヒューバー医師によれば、アメリカでも多くの人に見られる現象なのだそう。
これは多くの人がマグネシウム欠乏に陥っていることと関係するそうです。
チョコレートには実際、マグネシウムが豊富に含まれます。
しかし体内で糖分を代謝する際に大量のマグネシウムを消費するため、砂糖とマグネシウムの両方が含まれるチョコレートを食べるとさらなるマグネシウム渇望を引き起こし、さらにチョコレートが欲しくなる……という悪循環に陥ってしまうのです。
チョコレートが食べたいときに食べると良いもの
チョコレートが食べたくなったら、マグネシウムが豊富に含まれる食品をとりましょう。
具体的には、ナッツ類や豆類、フルーツなどです。
その食べ物に含まれる栄養素を体が必要としているケース2:洋菓子が食べたい→クロム、リン、硫黄、トリプトファン欠乏
洋菓子が食べたい衝動におそわれることも、少なくありません。
この場合はクロムやリン、硫黄やトリプトファンと呼ばれる栄養素が欠乏している可能性が高いそう。
クロムやリン、硫黄はミネラルの一種です。
トリプトファンは必須アミノ酸(体内で合成できないため、食事から摂取する必要のあるアミノ酸)のひとつで、タンパク質に含まれます。
これらは、洋菓子に使われている乳製品や卵に多く含まれています。
洋菓子が食べたいときに食べると良いもの
洋菓子に使われている乳製品や卵にミネラルやタンパク質が含まれるのは事実ですが、洋菓子に使われている量は少量であるため、洋菓子の摂取ではミネラルやタンパク質欠乏は解消できません。
ミネラルやタンパク質をより多量に含む食材を摂取したほうが効果的です。
クロム、リン、硫黄、トリプトファンを多く含む食品
クロム:ブロッコリー、チーズ、鶏肉
リン:鶏肉、牛肉、卵、乳製品
硫黄:クランベリー、ケールやキャベツなどアブラナ科の野菜
トリプトファン:チーズ、レバー、レーズン、ほうれん草
その食べ物に含まれる栄養素を体が必要としているケース3:生理前の異常食欲→亜鉛欠乏
また、生理前の異常な食欲は、亜鉛の欠乏により引き起こされている可能性が。
亜鉛欠乏が起こると食欲増進や過食、甘いものや塩辛いものが無性に食べたくなる現象が起こることが知られています。
亜鉛は、女性ホルモンであるエストロゲンのはたらきに深く関わっています。
エストロゲンの分泌が増えると、体内の亜鉛の量が減少します。
亜鉛は、食事として体内に入ってきた必須脂肪酸の処理の過程にもかかわるため、亜鉛欠乏は必須脂肪酸欠乏を引き起こし、疲労感やうつ状態、食欲亢進や頭痛などの「PMS(月経前症候群)」と呼ばれる症状を引き起こします。
生理前の異常食欲があるときに食べると良いもの
亜鉛を多く含む食品は赤肉、根菜、シード類や魚介類です。
もっとも含有量が高いのは牡蠣。
また、ピュアココアにも多く含まれます。
その食べ物に含まれる栄養素を体が必要としているケース4:食べても食べてもまだ食べたい→トリプトファン、チロシン、ケイ素欠乏
女性によく起こる「食べても食べても食べ足りない」衝動は、トリプトファン、チロシン、ケイ素が不足しているそう。
トリプトファンは必須アミノ酸で、三大神経伝達物質の一つである「セロトニン」の原料となります。
チロシンは非必須アミノ酸の一種でタンパク質に含まれる、神経伝達物質の原料です。
ケイ素は「シリカ」とも呼ばれ、皮膚や毛髪、爪、血管や細胞壁に多く存在するため、美容の観点からも重要な栄養素。
これらの栄養素が欠乏すると「何でもいいからとにかく食べたい」「お腹はいっぱいなのに、まだ何か食べたい」という欲求が起こります。
食べても食べてもまだ食べたいときに食べると良いもの
上記の栄養素を多く含む食品は、以下の通りです。
トリプトファン、チロシン、ケイ素を多く含む食品
トリプトファン:チーズ、レバー、レーズン
チロシン:オレンジ、青物野菜、赤い色の果物や野菜
ケイ素:ナッツ、シード類、ほうれん草、ニンジン
食べ物に含まれる栄養素と直接関係ないケース
しかし、欲する食品に含まれる栄養素とは関係のない体の反応であるケースもあります。
食べ物に含まれる栄養素と関係ないケース1:氷が食べたい→鉄欠乏
飲み物に入っている氷をバリバリ食べるのを好んだり、「飲み物には必ず氷が入っていないといやだ」という人がいます。
その程度ならまだ良いのですが、「氷が無性に食べたくてたまらない」という段階にまで達すると、それは「氷食症」という症状です。
氷食症のメカニズムは解明されていませんが、鉄分の欠乏が原因のひとつとされています。
鉄分が欠乏すると赤血球の数が減るため、自律神経が乱れることにより、体温調節に狂いが生じるのではないかと考えられています。
氷食症まで至っていなくても、飲み物の氷を食べるのが無性に好きな人は、軽度の鉄欠乏に陥っているのかもしれません。
氷が食べたいときに食べると良いもの
肉類や魚、海藻類など鉄を多く含む食品をとれば良いのですが、ひとつ注意したい点があります。
食物に含まれる鉄には、その構造の違いから「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類に分かれます。
肉類や魚介類など動物性食品に含まれている鉄は「ヘム鉄」で、野菜や海藻など植物性食品に含まれている鉄が「非ヘム鉄」です。
ヘム鉄の吸収率は、非ヘム鉄の5〜6倍とされているため、効率良く鉄をとりたい場合はヘム鉄を含む食品を選ぶと良いでしょう。
食べ物に含まれる栄養素と関係ないケース2:パンが食べたい→窒素欠乏
パンなどの精製炭水化物が無性に食べたい場合は、意外にも体は糖分を欲しているのではなく、アミノ酸に含まれる窒素が欠乏しているのだそう。
アミノ酸は、タンパク質に含まれます。
タンパク質の摂取が不足すると、精神を安定させるはたらきをする神経伝達物質「セロトニン」の分泌量が減少します。
セロトニンの分泌量が減少すると、糖質への欲求が高まるとされているのです。
パンなどの精製炭水化物は血糖値を急上昇させるため、「パンが食べたい」という欲求が生まれるというしくみ。
パンが食べたいときに食べると良いもの
肉類や魚、ナッツや豆類などの高タンパク食品を摂取すると「パンが食べたい衝動」がおさまります。
食べ物に含まれる栄養素と関係ないケース3:ポテトチップスが食べたい→鉄欠乏
ポテトチップス中毒になっている人はアメリカでも多いそう。
ヒューバー医師によると、ポテトチップスが無性に食べたくなるのは鉄欠乏が原因なのだそうです。
鉄が欠乏すると、人間はパリパリしたものを噛みたくなるのだそうです。
「氷食症」の「氷をガリガリ噛みたい」という症状と少し共通するところがありますね。
ポテトチップスが食べたいときに食べると良いもの
赤肉や魚、緑色の濃い野菜やチェリーなど、鉄分を多く含む食品をよく噛んで食べると良いそうです。
「食物渇望チャート」の実際の効果は?
「食物渇望チャート」には、思い当たるところが多々ありました。
私は糖質制限をしているので、肉や卵の摂取が多く、糖質を含むこともあって野菜の摂取は少なくなりがちです。
そこでお通じのためにマグネシウムのサプリメントをとり始めたのですが、いつの間にかチョコレートやナッツへの渇望が消えていることに気づきました。
糖質制限ではチョコレートはNG食品ですから、無糖ココアを愛飲していたのですが、すっかり欲しくなくなりました。
またヘム鉄のサプリメントも摂取していますが、よく考えたら最近は飲み物に氷を入れなくなっていました。
さらに肉をたくさん食べるためか、生理前の異常食欲もほぼなくなりました。
しかし、鉄分やリンは多めに摂取しているはずなのに、コーヒーの多飲だけはやめられません。
栄養素欠乏は、食べ過ぎてしまう原因の一つ
アメリカではこのほかにもさまざまな研究があり、食物渇望の原因を栄養素の欠乏とする研究はそのうちのひとつに過ぎません。
食べ過ぎてしまう原因には環境要因、感情やストレスとの関係や、カフェインや甘味への渇望では遺伝的要因も指摘されています。
おそらく、これらのさまざまな要因が重なり合って食べ過ぎてしまう現象が起こるのではないでしょうか。
いずれにせよ、意志の力で体の声を抑え込むのではなく、体の声を聞いて適切な方法で体を満たしてあげることが、食べ過ぎてしまう現象の根本的な克服につながるはず。
その一歩として、ぜひ「食物渇望チャート」を活用してみてください。