美や健康に気を遣う人たちのあいだではすっかり常識となった糖質制限。ダイエット目的で実践する人も多いものの、思うようにやせられないケースも見られます。
そんななか、糖質制限実践者たちのなかでいまブームとなっているのが「ケトジェニックダイエット」という食事法です。
私自身もケトジェニックダイエットを実践しており、開始からちょうど1年になります。この記事では、私が実感している効果も含めて、ケトジェニックダイエットについて解説します。
ケトジェニックダイエットとは?
「ケトジェニックダイエット」(Ketogenic Diet)とは、高脂質・高タンパク・低糖質の食事を摂ることで、体内に「ケトン体」という物質を産生させる食事法です。
いわゆる「糖質制限食」よりも糖質の摂取量をさらに減らした食事法で、ダイエットやアンチエイジング、疾患の予防に効果があることから注目されている食事法です。
ケトン体とケトン体代謝とは
「ケトン体」とは、体内の脂肪が分解されてできた脂肪酸が肝臓に送られて合成される物質です。
ケトン体は血液によって全身に運ばれ、全身の細胞でエネルギー源として利用されます。この状態が「ケトン体代謝」と呼ばれるものです。
「体内の脂肪が分解されてエネルギー源になる」ということは、「ケトン体代謝が行われていればやせられる」ということを意味します。
では、どうすればケトン体代謝に入ることができるのでしょうか?
ケトン体代謝が行われるしくみ
人間の体には「グルコース代謝」と「ケトン体代謝」の2種類の代謝機能がそなわっています。
糖質を摂取する食生活では、ブドウ糖からエネルギーを産生する「グルコース代謝」が行われます。「グルコース」とはブドウ糖のことです。
体内でエネルギー源として使われる優先順位は
1.糖質
2.脂質
3.タンパク質の順です。糖質の摂取量を制限すると、エネルギー源として利用できる糖質が体内で枯渇するため、脂質が使われるようになります。つまり、グルコース代謝からケトン体代謝に切り替わります。
これは、人類がその700万年という長い歴史のなかでしばしば食糧不足に直面してきたため、少しのあいだ食べ物がなくても自らの体脂肪を利用して生存できるように備わった機能だと考えらえています。
ケトン体代謝に入るには、糖質の制限が必至
ケトン体代謝に入る条件は、血糖値を上げないことです。糖質を摂取すると血糖値が上がり、上がった血糖値を下げるためにインスリンが分泌されます。しかしインスリンには、血糖値を下げるほかにも、脂質の分解を妨げるはたらきもあります。
このため、インスリンが分泌されている限りケトン体は作られず、ケトン体代謝に切り替わることができません。
「ゆる糖質制限」などの、糖質摂取量の制限が甘い食事法ではやせにくいのは、これが原因なのです。
血糖値を上げるのは糖質のみで、脂質やタンパク質は血糖値を上げません。このため、ケトン体代謝に入るには糖質の摂取量を制限することが絶対条件となります。
ケトジェニックダイエットはもともと小児てんかんの治療食
ケトジェニックダイエットの発祥は1924年にまでさかのぼります。現在でも全米で最も優れた病院のひとつとされ、世界中から患者が治療を受けにやってくる「メイヨー・クリニック」の糖尿病専門医だったラッセル・ワイルダー医師が、てんかんの治療法として「ケトン食療法」を編み出しました。
これは、1日の総摂取カロリーの75~80%を脂質から摂り、糖質は5%以下に抑え、残りをタンパク質から摂るという高脂質の食事法です。
ケトン食療法はてんかん発作の抑制に大きな効果を発揮しましたが、1940年代に抗てんかん薬が導入されると、てんかんの治療は投薬治療が主流になり、ケトン食療法のてんかん治療への適用は下火になりました。
しかし、抗てんかん薬でも発作を抑制できない「難治性てんかん」や「小児てんかん」の場合にケトン食療法が有効であるため、ケトン食療法は現在でも使われています。
ケトン体は脳のエネルギーになる
難治性てんかんでは、脳細胞の機能不全のためにブドウ糖を利用できず、脳がエネルギー欠乏状態に陥って発作が起きます。
それに対し、高脂質のケトン食では血中にケトン体が増え、脳がケトン体をエネルギー源として利用できるため、てんかん発作が起こらないと考えられています。
このことが示すのは「ケトン体は脳のエネルギー源である」ということです。
従来は「脳が利用できるエネルギー源はブドウ糖のみ」と考えられていました。脳の血管には「血液脳関門」というバリアー機能があり、脳にとって必要な物質のみ通し、有害な物質はブロックすることで神経細胞を守っています。
脳の毛細血管では、血管の内表面の細胞の並ぶ間隔が密着しているため、分子が小さな物質しか通過できません。脂肪酸は分子が大きいため、この血液脳関門を通過できないことから、従来は「ブドウ糖が脳の唯一の栄養」と考えられてきました。
しかし現在では、ケトン体も血液脳関門を通過し、脳の神経細胞のエネルギー源となることがわかっています。
ケトジェニックダイエットの具体的な食事内容
現在ブームとなっている「ケトジェニックダイエット」は、てんかんの治療法としての「ケトン食」とは厳密には内容が違います。
ここでは、てんかん治療に用いられるケトン食ではなく、ダイエットのための食事法としての「ケトジェニックダイエット」について説明します。
ケトジェニックダイエットの4つの原則
日本機能性医学研究所所長の斎藤糧三医師は、ケトジェニックダイエットを実践して2年間で18キロの減量に成功したそうです。
斎藤医師の著書「慢性病を根本から治す」によると、ケトジェニックダイエットは次の4つの原則から成り立っています。
1. 糖質摂取量を1食20g以下に制限
2. タンパク質を体重1キロあたり1.2〜1.6g摂る
3. 食物繊維を1日20g以上とミネラルを摂る
4. オメガ3脂肪酸を1日2g摂る
では、それぞれの項目についてくわしく見ていきましょう。
ケトジェニックダイエットの原則1:糖質摂取量を1食20g以下に制限
まず前提として、糖質制限食やケトジェニックダイエットでは、糖質や脂質、タンパク質の摂取g量を基準に考えます。ここでは、従来のカロリー計算による食事法は忘れてください。
ケトジェニックダイエットでは、糖質の摂取量を1食あたり20g以下、1日60g以下に制限します。
では、糖質20gとは具体的にどの程度の量なのでしょうか?
お米やパン、麺類や、糖質の多い野菜であるジャガイモでは、以下のとおりです。
糖質20gの目安量
・白米:50g(茶碗3分の1弱)
・パン:8枚切り1枚弱
・茹でうどん:100g(1食分は約240g)
・ジャガイモ:中ぐらいの大きさのもの1個(120g)
ケトジェニックダイエットの原則2:タンパク質を体重1キロあたり1.2〜1.6g摂る
「糖質制限をすると筋肉量が減少する」という説があります。これは、「糖質の摂取量を制限すると、筋肉のタンパク質からアミノ酸を肝臓に供給するようになり、肝臓がアミノ酸から糖質を合成する『糖新生』が起こる」という理論のよるものです。
実はこの説は科学的には実証されていないのですが、それでもケトジェニックダイエットでは「体にエネルギーを供給する」ということと、筋肉量の維持と運動したときの筋量増大を目標に、タンパク質をしっかり摂ります。
1日の摂取量の基準は、「体重1キロあたり1.2〜1.6g」です。つまり体重50キロの人では、50 x 1.2〜1.6 = 60〜80gのタンパク質が必要ということになります。
タンパク質のグラム数の目安
肉や魚では、大人の手のひらに乗るぐらいの大きさの量が約100gです。
タンパク質の含有量はその約20%であるため、手のひら大の肉から約20gのタンパク質が摂取できることになります。
しかし、「タンパク質なら好きなだけ食べて良い」ということではなく、1日に体重1キロあたり2gを超えないほうが良いようです。
タンパク質を摂り過ぎることが、長期間に及び肝臓と腎臓に負担をかけ、かえって脂肪肝や肝炎、腎炎や腎不全を引き起こす要因となるので注意しましょう。
ケトジェニックダイエットの原則3:食物繊維を1日20g以上とミネラルを摂る
健全な体内環境を保つためには、腸内環境を整える食物繊維とミネラルが必要です。
食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方で1日20g以上の摂取が推奨されます。斎藤医師は、肉や魚の摂取量と同量のg数の摂取を勧めています。
ミネラルは肉や魚にも含まれますが、それでもなお不足しやすいのはカルシウムやカリウム、マグネシウムです。
1日あたりの目標摂取量は、カルシウム650mg、カリウム3.5g、マグネシウム350mgです。
目標量が少し多めになっているのは、グルコース代謝からケトン体代謝になっても体の恒常性を維持するためです。
カルシウムは血圧の安定と筋肉の収縮(=エネルギー産生)の安定に、カリウムは筋肉でも特に心筋と消化管の収縮の安定に、マグネシウムは血管壁を正常に保つのと、カルシウムと拮抗しながら筋肉の収縮を安定させるためにはたらきます。
カルシウムはケールや小松菜、カリウムはアボカドや生わかめ、マグネシウムはアーモンドやゴマに豊富に含まれています。
ケトジェニックダイエットの原則4:オメガ3脂肪酸を1日2g摂る
現代人の食生活ではオメガ6脂肪酸の摂取が多く、オメガ3脂肪酸の摂取量が少なくなりがち。その結果、体内の炎症が強くなり、アレルギー疾患の症状が悪化しやすくなります。
オメガ6脂肪酸の摂取を減らし、オメガ3脂肪酸の摂取量を増やすように心がけましょう。
オメガ6脂肪酸を多く含むため避けたいのは、加工食品やファーストフードです。オメガ3脂肪酸は、アジやサバなどの青魚や、亜麻仁油やエゴマ油から摂取できます。
アジやサバなら2尾、亜麻仁油やエゴマ油は小さじ1杯(4g)で、オメガ3脂肪酸の1日の目標摂取量である2gに達します。
ケトジェニックダイエットと糖質制限食の違い
一般的な「糖質制限食」とケトジェニックダイエットは、糖質の摂取量を減らすという点では同じです。しかし糖質のみの摂取量を減らす糖質制限食に対し、ケトジェニックダイエットはタンパク質をしっかり補い、かつ食物繊維、ビタミン、ミネラルも十分に摂る点で異なります。
ケトン体代謝への移行期間に起こる症状
日常的に糖質を摂取する食生活からケトジェニックダイエットに切り替えると、体質により個人差はありますが、約1週間でグルコース代謝からケトン体代謝に切り替わるとされています。
体は体内に入ってきた有害物質を脂肪組織に蓄積することで封じ込めていますが、ケトン体代謝に切り替わり体内の脂肪の分解が始まると、体脂肪の中に溶け込んでいた有害物質が血中に遊離したのち、体外へ排出されます。
このため、頭痛や皮膚のかゆみ、倦怠感や疲労感のほか、に集中力の低下や眠気や震えなどの不快な症状が出ることがあります。
加えて、ラットの実験では「糖質はコカインより強く脳内報酬系を刺激する」という結果が出ているほど、糖質は強い依存性を持ちます。このため、糖質を多量に摂取していた人では、ケトン体代謝への移行期間に糖質への強い渇望を覚え、一種の「糖質の禁断症状」に悩まされることがあります。
さらに不利なことに、以前の食生活で糖質依存の度合いが高かった人では、ケトン体代謝に移行するまでに2〜4週間かかるケースもあるようです。
ケトジェニックダイエットの初期が辛い理由【移行期間の不快な症状】
先に述べたようなダイエット初期の不快な症状に負けて、ケトン体代謝への移行期間にダイエットに挫折してしまう人も珍しくありません。
そして、糖質の強い依存性からくる禁断症状の辛さのため、「やはり日本人はお米を食べないとだめなんだ」「糖質を制限するなんて極端な食事法だ」などと、糖質を再び摂取するための言い訳を探し始めます。
しかし、ここで辛さに負けて「少量なら良いだろう」と糖質を摂ってしまうと、インスリンが分泌されて以前の状態に戻ってしまい、今までの努力が水の泡になってしまいます。しかも糖質の依存性の強さから、「少しだけ」と思って食べ始めると止まらなくなってしまうこともしばしば。
ケトン体代謝に入ってしまえば体調は良くなりますので、「糖質ではなく脂質を摂る」「予定を入れて忙しくして気を紛らわす」などの工夫をして、この期間を一気に乗り切ってしまいましょう。
糖質の甘味は刺激的なものですが、脂質の甘味は人間が本能的に好きなものなので、つらい期間に摂りたい食品としておすすめです。
特に、アルガンオイルやアボカドオイル、グリーンナッツオイルは、香ばしさもあるので比較的摂りやすいでしょう。
ケトン体代謝に入っていることの判断基準
斎藤医師は、ケトジェニック状態であることの定義を「血液中の総ケトン体が1000μmol/L(マイクロモル/リットル)以上」としています。
ちなみに、糖質を普段摂取している人では、血中総ケトン体は99μmol/L以下です。
血中総ケトン体の数値を知るには血液検査が必要ですが、医療機関を受診する必要があるだけでなく、結果が出るまで1週間ほどかかってしまいます。
このため斎藤医師は、インターネット通販や、薬局で取り寄せてもらって購入できる尿試験紙の利用を勧めています。
尿試験紙でのケトジェニック状態の判断基準は、以下のとおりです。
尿試験紙でのケトジェニック状態の判断基準
・尿ケトン体反応が「-」(マイナス)反応:糖質依存状態
・尿ケトン体反応が「+」(プラス)反応:ブドウ糖とケトン体の双方をバランス良く代謝しているセミケトジェニック状態
・尿ケトン体反応が「2+」や「3+」:ケトジェニック状態
私個人としては、ケトジェニック状態になったときは「頭が冴える」「集中力が増す」「空腹時にも、血糖値の上下から来る空腹感のような強い空腹感がなく、お腹が鳴らない」などの感覚があります。
ケトジェニックダイエットで得られるメリット
辛い移行期間を乗り越えてケトン体代謝に入ることさえできれば、ケトジェニックダイエットではさまざまなメリットが得られます。
ケトジェニックダイエットで得られるメリット1:痩せる
ケトン体代謝では体脂肪を分解してエネルギー源とするため、ケトジェニックダイエットでは当然ながら痩せます。
しかも、カロリー制限によるダイエットのように空腹感に悩まされることもありません。これは、脂質をしっかり摂る食事法であるためです。脂質は糖質やタンパク質に比べ消化に時間がかかるため、満腹感がもっとも長時間にわたり持続する栄養素です。
空腹感は血糖値が下がるときに起こるため、血糖値を激しく上下させることのないケトジェニックダイエットでは空腹感を感じにくく、ダイエットに伴うストレスも少なくて済むのです。
ケトジェニックダイエットで得られるメリット2:がん・糖尿病・認知症などの慢性疾患の予防にもなる
糖質の多量摂取は肥満につながるだけでなく、がんや糖尿病、認知症などのさまざまな疾患の原因となることが知られています。
ケトジェニックダイエットでは糖質の摂取量を厳しく制限するため、これらの疾患にかかるリスクが低くなります。また、がん細胞は栄養としてケトン体を使えず、糖質を好むことから、ケトジェニックダイエットはがんの予防法や治療法としても注目されています。
さらに、ケトン体に含まれる「β-ヒドロキシ酪酸」は、老化やがんの引き金となる「脱アセチル化酵素」のはたらきを阻害することがわかっています。β-ヒドロキシ酪酸にはこれに加え、抗酸化作用にも期待ができます。
酸化ストレスは慢性疾患をはじめ多くの病気の原因となるため、ケトジェニックダイエットはこれらの病気の予防にも有効だと考えられています。
ケトジェニックダイエットで得られるメリット3:むくみと冷えから解放される
糖質を摂ると、血糖値は急上昇します。これは体にとって危険な状態であるため、インスリンが分泌されて血糖値が急降下します。このような血糖値の乱高下は、交感神経を興奮状態に導きます。
交感神経が優位になると末梢血管が収縮するため、血行が悪くなって冷えの原因となります。
ケトジェニックダイエットでは、糖質の摂取量を制限することから血糖値の乱高下がないだけでなく、消化するために口から始まる消化管全ての運動が必要になるタンパク質を多く摂ることで、「食事誘発性熱産生」(DIT)が多くなるため体が冷えにくくなります。
食事誘発性熱産生(DIT)とは
「食事誘発性熱産生」(DIT= Diet-Induced Thermogenesis の略)とは、体内で食べものが分解される際に発生する熱のことです。
このとき発生する熱量は、栄養素によって異なります。糖質では摂取エネルギーの約6%、脂質では約4%ですが、タンパク質ではずば抜けて多く、摂取エネルギーの約30%にもなります。つまり100キロカロリーのタンパク質では、約30キロカロリーのDITが発生します。
このため、タンパク質をしっかり摂るケトジェニックダイエットでは体温が下がりにくくなり、冷え性体質ではなくなります。
また、糖質は体内で自らの重量の3倍の水分をたくわえる性質を持っています。つまり、1gの糖質は3gの水分をたくわえます。ケトジェニックダイエットでは糖質の摂取量を制限するため、糖質がたくわえる水分が原因での身体のむくみはなくなります。
さらに、ケトジェニックダイエットでは、むくみのもうひとつの原因である「タンパク質不足」におちいらないことも関係します。
むくみは、血管外の細胞と細胞の間のすき間を埋めている「細胞間質液」の量が増えるときに起こります。細胞間質液の増加は、血液中に含まれる「アルブミン」というタンパク質が不足するときに起こります。
アルブミンには、血管内に水を保持するはたらきがあります。アルブミンは肝臓で作られますが、このときに原料となるアミノ酸、すなわちタンパク質が十分に供給されていないと生産されるアルブミンの量も減るため、血管内の水分が血管の壁から漏れ出すようになってしまい、細胞間質液が増加してむくみが起こります。
ケトジェニックダイエットではタンパク質をしっかり摂るため、むくみが起こりにくくなります。
タンパク質の代謝には亜鉛とビタミンB6が必要なため、あわせて摂るようにするとより効果的です。
ライター体験談:ケトジェニックダイエットは、むくみ撃退に本当に効いた
私は冷え性ではありませんでしたが、朝は起床後1時間ほど経たないと顔のむくみが引かないほど、ひどいむくみ体質でした。
ケトジェニックダイエットに切り替えてからは、朝起きた瞬間からむくみのないすっきりしたフェイスラインです。大事なアポイントメントがある日も、顔のむくみを引かせてから出かけるために早起きする必要も、もうありません。
ケトジェニックダイエット実践者の口コミ
ケトジェニックダイエットにはさまざまな効果があるものの、もっとも知りたいのは「本当に減量効果が得られるダイエット法なのか?」ということです。
実践者の口コミから、この点を探ってみましょう。
ケトジェニックダイエット実践者の口コミ1:1か月で3キロ減
40才の女性は、停滞期を挟みながらも、1か月で3キロの減量に成功したそうです。
ケトジェニックダイエット開始から1か月が過ぎました。炭水化物を食べない生活は生まれて初めてでしたが、「炭水化物は太る!」と徹底的に自分に言い聞かせて乗り切りました。
1か月で体重は48キロから45キロに、体脂肪は23%から21%に。内臓脂肪も3から1になりました。停滞期もありながらユルユルと痩せている感じなので、まだまだ続けようと思います。
ケトジェニックダイエット実践者の口コミ2:1年間で22キロ減
次は、1年間で22キロの減量に成功した男性のケースです。
妻に「お腹が出過ぎ」と指摘されたのをきっかけに、ダイエットを決意。いろいろ調べた結果、ケトジェニックダイエットがもっとも論理的だと思えたのでこの方法で開始しました。
1年間で体重は92キロから70キロに、体脂肪率は28%から14%になり、以前の服は全部着られなくなったので買い替えました。
糖質抜きが辛かったのは、最初の1週間ぐらい。必須栄養素の摂取量は、一部サプリメントも使って満たしています。
カロリー制限ダイエットの時のようにフラフラすることもありませんでした。やせたこと以外の効能は、今年は花粉症が出なかったことです。
これはケトジェニックダイエットというよりは、糖質を摂らないことの効能なのかもしれません。
ケトジェニックダイエット実践者の口コミ3:体からケトン臭がするようになった
しかし、ネガティブな効果も。ダイエットはできているものの、好ましくない体臭がするようになってしまった男性のケースです。
順調にダイエットできていたのですが、最近は体重が停滞期に突入して減らなくなりました。そこでケトジェニックダイエットは続けながら、ダイエットに効果的だという無酸素運動(筋トレ)を増やし、有酸素運動(ランニング)はやめました。
すると、家族から「体臭が変わった。甘酸っぱい臭いがする」と言われるようになりました。ネットで調べると、どうも「ケトン臭」というもののようです。
ケトジェニックダイエットのデメリットと解決法
ケトジェニックダイエットはいわば体質を変える食事法であるため、実践にはいくつかのデメリットをともないます。
ここでは、ケトジェニックダイエットの代表的なデメリット3つと、その解決法を見てみましょう。
ケトジェニックダイエットのデメリット1:体から「ケトン臭」がすることがある
3つ目の口コミの例のように、ケトジェニックダイエットの初期には体から「ケトン臭」と呼ばれる臭いがすることがあります。
腐った果物の匂いと汗臭さが混じったような不快な臭いで、周囲の人にも感じられるほど強く臭う場合もあります。
ケトン体は「アセト酢酸」「β-ヒドロキシ酪酸」「アセトン」の3つの成分で構成されます。
ケトジェニックダイエットを開始後、ケトン体代謝に切り替わって血液中のケトン体濃度が高まると、尿や呼気、汗のなかにアセトンが排泄されるようになるため、アセトンが持つ独特の臭いが体臭として感じられることがあります。これが「ケトン臭」と呼ばれるものです。
ケトジェニックダイエットを行う人全員にケトン臭がするというわけでもなく、またケトン臭がする人のなかでも、臭いの程度には個人差があります。これは、ケトン体のエネルギー源としての利用効率に体質差があるためではないかと言われています。
ケトン臭対策:水分をしっかり摂る、運動する、アルカリ性食品を摂る
何の対策も講じなくとも、ケトジェニックダイエットを続けて約3か月~半年経つと、ケトン臭はなくなります。
これは、体細胞でのケトン体のエネルギー源としての利用効率が高まることと、糖質を多量に摂取する食生活で低下していた腎臓のケトン体再吸収能力も向上し、余分なケトン体が腎臓ですみやかに再吸収されるようになることが関係するためです。
しかし、体臭はいますぐ何とかしたいもの。3か月が経過する前にできることとしては、水をたくさん飲むことです。尿から積極的にアセトンを排泄することで、ケトン臭を減らすことができます。
また、運動量を増やして、筋肉でのケトン体の燃焼量を増やすことも役立ちます。
さらに、アルカリ性食品の摂取もケトン臭対策に効果があるとされています。人間の体は通常、pH7.4の弱アルカリ性ですが、ケトン体は酸性の物質であるため、血液中のケトン体濃度が高まっているときは酸性に傾いています。
レモンや梅干し、お酢や海藻類などのアルカリ性食品を積極的に摂取して体を弱アルカリ性に戻すことで、ケトン臭が改善すると言われています。
ケトジェニックダイエットのデメリット2:ケトン体代謝への移行期に体の不調がある
前述したように、グルコース代謝からケトン体代謝への移行期にはさまざまな体の不調が現れます。
このようなときには、他の脂肪酸よりケトン体へ早く代謝され、糖質の残存に左右されないオイルの摂取が有効です。
MCTオイルを摂る
ケトン体代謝への移行期間を短くするには、「MCTオイル」という油脂を摂取すると良いでしょう。
MCTオイルは、ココナッツオイルから中鎖脂肪酸のみを抽出したものです。菜種油やごま油、オリーブオイルなどに含まれる「長鎖脂肪酸」は小腸で吸収されてから何段階ものプロセスを経てゆっくりと消費されるのに対し、中鎖脂肪酸は小腸から門脈を経由して直接肝臓に入って代謝され、ケトン体となります。
中鎖脂肪酸は、長鎖脂肪酸の約5倍の早さで体内で分解されます。すなわち、体内に貯蔵されにくい=体脂肪となりにくいだけでなく、体をすみやかにケトン体代謝に移行させます。
MCTオイルを摂取後、わずか1〜2時間でケトン体代謝へと移行することができるとされています。
さらに、中鎖脂肪酸からは、ケトン体が長鎖脂肪酸の約10倍多く産生されます。
しかも、通常グルコース代謝からケトン体代謝に切り替わるのは糖質が体内で枯渇したあとですが、中鎖脂肪酸のケトン体合成回路は糖質の影響をほとんど受けないため、糖質がまだ体内に残っていてもケトン体を合成することができます。
ケトジェニックダイエットのデメリット3:社会生活が営みにくい
糖質制限食やケトジェニックダイエットが普及してきたものの、一般に販売されている食品や外食で提供される食事には、まだまだ糖質主体のものが多いのが実情です。
自分で食事をコントロール可能な状況では問題ありませんが、お呼ばれや会食などで決まった食事が提供される場合は、糖質主体の食事であることがほとんどです。
こういった場合に、どのようにして相手の気を悪くせずに自分のダイエットを貫くのかは、ケトジェニックダイエット実践者に限らず、さまざまな食事療法を行う人の悩みでもあります。
お付き合いの食事をする機会が多い人の中には、このことをストレスに感じて糖質制限やケトジェニックダイエットに挫折してしまう人も意外に多く存在します。
対処法の選択肢としては、次のふたつしかありません。
割り切って一旦糖質を摂取する、あるいは食事法を貫く
1. 断れない状況のときは割り切って糖質を摂り、次の食事からすみやかにケトジェニックダイエットに戻す
2. 気の置けない関係の人との食事の場合は、ケトジェニックダイエット実践中であることを相手に伝え、自分の食事法をつらぬく。ケトジェニックダイエットに沿った内容の食事を用意してもらうか、可能な状況では自分で食事を持参する
私は、状況にあわせて1と2を使い分けています。糖質制限食が一般に普及してきたおかげで、変な目で見られることも少なくなりましたが、年配の人からはやはり驚きの目で見られます。
そのような場合の対処法はただひとつ、気にしないことです! 自分の体に入れるものを選び、その結果を引き受けるのは自分なのです。
ケトジェニックダイエットはメリットの多い食事法
私の場合は、ケトジェニックダイエットを始める前に、肉・卵・チーズ主体の食事法「MEC食™」を2年間実践していたので、タンパク質や脂質の消化に胃が慣れていたため、特に体の不調を感じることなくケトジェニックダイエットに移行することができました。
ケトジェニックダイエット開始から1年が経ちますが、最初の2か月で4キロやせた以降は体重に変化がありません。しかし、肌や髪の質が改善されたり、集中力が増したりなど、ほかのさまざまな効果も実感しています。
ケトジェニックダイエットは、移行期を乗り切ることさえできれば、とても体調が良く、メリットも多い食事法です。
体重を減らすとともに、体質も根本的に改善したいと思っている人にお勧めのダイエット法です。
【参考文献】『慢性病を根本から治す 「機能性医学」の考え方』 斎藤糧三 2015 光文社新書 P59〜60、P167〜170
(この記事の監修:管理栄養士 岩月啓四郎)