食べ過ぎ、飲み過ぎ、それに運動不足の日々が続くと、体重計に乗るのが怖くなる。
体のお肉はいつもより増えているし、体重が増えているだろうことも予測できる。実際、体重計に乗って増えていれば「やはり」という感情とともに、ズシリと心も重く感じる。
体重が増えると足音まで低い音に感じられる?
体重増加を視覚で確認した途端、それまで普段どおりしていた全ての動作が、重く鈍くなっているように感じられる。増えた体重の分だけ歩くスピードも遅くなり、足音さえ、重く低い音に変わったように思えてしまう。
スタイルにも自信がなくなり、体形をカバーしてくれるゆるっとした服ばかり着てしまうなど、おしゃれも楽しくなくなってしまう…。
しかし、そんな重く後ろ向きな気分も、難なく解消できるかもしれない。加工した自分の足音を聞くだけで、気分を前向きに変えることができるというのだ!
「ニセモノ」の軽い足音で体形イメージも軽くなる
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジで行われている「Hearing Body Project(体の音を聞くプロジェクト)」で、Ana Tajadura-Jiminez博士が率いる研究チームが、自分の足音が軽く聞こえる特殊なサンダルを使った実験を行った。
サンダルにはヘッドフォンが接続されており、被験者が履いて歩くと、ヘッドフォンから自分の足音が聞こえる仕組みだ。その足音は、自分の本来の足音よりも軽く聞こえる、つまり「ニセモノ」の足音が聞こえるように操作されている。
実験終了後、被験者たちには「(特殊サンダルで歩いてみて)どのような感覚を持ったか」という質問を投げかけた。すると、「体が軽く感じられた」「スリムになった気がした」「脚が長くなったような気がした」「膝が柔らかくなった感じがした」などという答えが返ってきたという。
これらの回答から分かるのは、被験者らが皆、実験前よりも前向きな気持ちになったことだ。
自分に対するイメージも「細め」に
また、実験後に、複数のアバター(分身となるデジタルキャラクター)の中から自分の体形に近いものを選ぶという課題を行ったときにも、皆いずれも、現実の自分より細めのアバターを選んだという。
これは脳が、軽い足音を聞きながら歩いたことによって錯覚を起こし、実際の自分の体重よりも軽い体で歩いていると認識したということだ。Tajadura-Jiminez博士は、「脳は常に、過去の体験に基づいて受け取った情報を認識・判断しており、これまでと違う感覚のフィードバックがあると認識を書き換える」(※1)」と話している。
この「認識」とは、思い込みのことである。
思い込みで人間は変わる 「プラセボ効果」で健康に?
人の体は、「思い込み」によって変調を起こすことがある。これを「プラセボ(プラシーボ)効果」といい、例えば、薬効のないただの砂糖などで作られた偽薬を、「これを飲めば絶対に病気が治る」と信じて飲むことで、実際に病気の症状が改善されることがあるのだ。また、その逆で思い込みによって病気になる現象を「ノーシーボ効果」という。
私たちは、思い込みによって健康にも不健康にもなり得るのだ(※2)。
プラセボ効果ダイエット トレーニング持続時間も長く
Tajadura-Jiminez博士らは、この自分の足音が軽く聞こえるサンダルのロジックをアプリに応用し、痩せているのに太っていると思い込む摂食障害の治療に役立てようと開発中だという。
また、自分の足音よりも軽い足音を聞きながらランニングやジムのトレーニングを行うと、持続時間が長くなる効果もあるそうだ。
摂食障害の人にも、ダイエットしようと運動する人にも役立つという足音による思い込みの力。アプリが完成したら、軽くなった自分の足音を聞きながら、前向きな気持ちでダイエットに取り組んでみたいものだ。